夜  エリ・ヴィーゼル
[新版] 村上光彦訳 みすず書房 2010年

強制収容所を体験したエリ・ヴィーゼルの『夜』を読みました。

アウシュヴィッツ関連の本としては、同じく強制収容所を体験した心理学者(精神科医)V・E・フランクルの『夜と霧』が有名です。私も折にふれて読み返しています。

ヴィーゼルの『夜』のほうは、体験記録ではなく、「自伝的小説」。15歳であった彼が、そこで何を見、何を体験したのかが描かれています。

「自伝的小説」……。自伝なのか。小説なのか。小説ではあっても、核となる出来事は彼自身が体験したこととして読みました。

強制収容所でどのようなことが行われていたかは、みなさんもご存知だと思います。彼も信じられない光景を目にします。それは、トラックによって運び込まれ、炎の中に落とし入れられた幼児たちの姿でした(p78)。もちろん、このほかにも……。

以前の彼は、ユダヤ教徒として《信仰》に生きようとする少年でした。私はキリスト教徒ではありますが、同じく《信仰》を持つ身として、この状況下で彼の信仰がどうなっていくのかにも関心を抱きながら読みました。どうなっていったのかは、ぜひ彼自身の言葉でお読みください。

「序文」をフランスのカトリック作家モーリヤックが書いています。
最後の段落で彼は、「では私は、〈神〉は愛なりと信じている私は、この若い話相手にいったいなんと答えることができたであろうか」と己に問います。
そして、最後に、「しかし、私にできたのは、ただ涙を流しながら彼を抱擁することだけであった」と記すのです。この最後の一文が重く響きました。